02245_ケーススタディ:「訴訟=リスク」という常識を疑え。あえて「法廷」という土俵に乗ることで、法外な手切れ金を“適正価格”まで暴落させる「訴訟活用型」値切り術

「訴えてやる!」 
この言葉を聞いて、震え上がる経営者は二流です。

百戦錬磨の法務参謀にとって、相手からの提訴は、時に
「ラッキー」
な展開となり得ます。

というのは、密室での
「言ったもん勝ち」
のゆすり・たかりが、法廷という
「衆人環視の理性の場」
に引きずり出された瞬間、その法外な要求は魔法が解けたように色あせ、しぼんでいくからです。

本記事では、経営権を巡る泥沼の争いにおいて、あえて
「訴訟リスク」
を飲み込み、相手の弁護士のやる気すら削ぎ落として勝利をつかむ、
「司法エコノミクス(経済学)」
の極意を解説します。

【この記事でわかること】

• 「経営する気がないのに権利を主張する者」に対する裁判所の冷ややかな視線
• 相手の弁護士の戦意を喪失させる「期待値コントロール」のメカニズム
• 訴訟が「最大のリスク」ではなく「最大のディスカウントツール」になる瞬間

【相談者プロフィール】 

相談者: 医療法人社団 氷壁会(ひょうへきかい) 理事長 雪解 待人(ゆきげ まちと) 
業種 : 医療・介護事業
相手方: 海千・山千(うみせん・やません)(経営の実権を持たない名ばかり社員・元理事)

【相談内容】 

先生、頭が痛いです。 

法人運営の正常化を目指して、既得権益にしがみつく古参メンバー(海千氏・山千氏)を排除し、私と親族中心の体制にする
「社員変更手続き」
を粛々と進めています。

ところが、彼らは
「俺たちの権利を奪うな」
「俺たちをやめさせたいなら、相応の金銭を要求する」
と猛反発し、
「地位確認訴訟を起こすぞ」
と脅してきています。

彼らに経営する気も能力もないことは明白ですが、もし訴訟になって負けたらどうしようと不安です。 

早期解決のために、彼らが要求する法外な
「解決金」
を支払ってでも、示談で済ませるべきでしょうか?

「どうぞ訴えてください」が最強のカード

雪解理事長、ここでビビってはいけません。 

相手が
「訴えるぞ」
と言ってきたら、満面の笑みでこう返してください。

「ぜひ、そうしてください。裁判所の公正な判断を仰ぎましょう」

なぜなら、今回のケースにおいては、訴訟は
「リスク」
ではなく、
「相手の要求を強制的に値切るためのフィルタリング装置」
だからです。

裁判所は「ゴネ得」を許さない

海千氏・山千氏の目的は何でしょうか? 

理事長のお話を伺い、証拠となりそうな書類をみている限り、
「崇高な医療の理念を実現したい」
わけでも
「経営に参画して汗をかきたい」
わけでもないようですね。

彼らの目的は、ただ1つ。

「カネ」
でしょう。

裁判所という場所は、この手の
「経営する意思も能力もないのに、権利だけ主張してカネをせびる人間」
を、生理的に嫌悪します。

もし彼らが、裁判官の前で、法外な金額をふっかけたらどうなるか。

「あなたは経営に関与しないのに、そんな大金を要求するのですか? それは権利の濫用ではありませんか?」 
と、裁判官から冷たい視線を浴びせられ、心証を悪化させ、自滅するのがオチです。

密室の交渉では
「ゴネ得」
がまかり通っても、法廷という
「理性のリング」
では、不合理な要求はただの
「ワガママ」
として切り捨てられます。

相手の弁護士を「兵糧攻め」にする

さらに、ここからが
「司法エコノミクス」
の真骨頂です。

こちらの
「示談目線(払うつもりの金額)」
が、相手の要求よりはるかに低いことを、訴訟を通じて明確にします。

すると、相手方の弁護士はどう思うでしょうか。 

「この事件、勝てるかどうかも怪しいし、仮に勝っても取れる金額はたかが知れている。成功報酬(歩合)は期待できないな・・・」 
と計算します。

弁護士もビジネスです。 

「儲からない案件」
に、全力を注ぐ弁護士はいません。

期待値が低いとわかれば、相手の弁護士は真剣に戦う意欲を失い、あるいは依頼者(海千・山千)に対して
「この辺で手を打った方がいいですよ」
と、低い金額での和解を説得し始めます。

つまり、訴訟を歓迎することで、相手の弁護士を
「こちらの味方(説得役)」
に変えてしまうのです。

【今回の相談者・雪解理事長への処方箋】

雪解理事長、小切手を切る必要はありません。 

以下の実行を提案します。

覚悟を決めましょう。

1 社員変更手続きをすすめる 

脅しに屈せず、手続きを粛々と進め、既成事実を作ります。

2 訴訟を待つ 

相手が訴えてくるのを待ちます。

訴訟になれば、相手の
「法外な要求」

「常識的な相場」
へと強制的に修正されます。

3 和解で手打ち

相手の弁護士が
「割に合わない」
と悟ったタイミングで、こちらの想定する低い金額での和解を提示し、手打ちにします。

「訴訟」
というプロセスを通すことで、不純物をろ過し、適正価格で平和を買う。

これが、泥沼の争いをスマートに制する、大人の解決法です。

※本記事は、架空の事例をもとに、法人間や個人間の紛争における交渉戦略および訴訟戦術の一般論を解説したものです。 
実際の契約関係や権利義務の帰趨、訴訟の勝敗見込みについては、契約書の文言や詳細な事実関係、裁判所の判断により異なります。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02244_ケーススタディ:「節税」のつもりが「上場廃止」の引き金に? “名目”の変更が招く、法務ロジック崩壊の恐怖

「役員報酬を、個人の懐に入れるか、自分の資産管理会社に入れるか。単なるポケットの違いだろう?」 
経営者やオーナーは、しばしば税務メリットや資金繰りの観点から、こうした
「おカネのルート変更」
を安易に提案してきます。

しかし、その
「単なる変更」
が、過去に金融庁や証券取引所に対して行った
「命がけの釈明」
を、根底から覆す“自白”になるとしたらどうでしょうか?

本記事では、目先の利益(節税・資金還流)に目がくらみ、自ら
「私は嘘つきでした」
と公言してしまいそうになる経営者を、法務担当者がいかにして止めるべきか、そのロジックを解説します。

【この記事でわかること】

• 「役員報酬」と「経営指導料」の決定的違いとは
• 当局や取引所に対する「建前(ストーリー)」を一貫させることの重要性
• 整合性を無視した「つまみ食い」が、企業の命取りになる理由

【相談者プロフィール】

相談者: 株式会社 メメ・ホールディングス 法務部長 論理 守(ろんり まもる) 
業種 : 自動車関連サービス(東証上場)
登場人物: 剛田会長(メメHDのオーナー会長)、
ゼータ・アセット(剛田会長の個人の資産管理会社)

【相談内容】 

先生、また会長が思いつきで危ないことを言い出しました。 

現在、剛田会長は当社(メメHD)から「役員報酬」をもらっています。 

これを、会長個人への支払いではなく、会長の資産管理会社である
「ゼータ社」
への
「経営指導料」
という名目に切り替えて支払えないか、と言ってきたのです。

どうやら、ゼータ社がメメ株を取得した際の借入金返済や、税務上のメリットを考えてのことのようです。 

「私が指導しているのだから、私の会社に払っても同じだろう」
と会長は言うのですが、法務としてこれを通してしまって良いものでしょうか?

確か、ゼータ社がメメ株を持った時の
「建付け」
が気になっていまして・・・。

「名目」はただのラベルではない

論理部長、会長のそのアイデア、実行すれば
「自爆スイッチ」
を押すことになります。

全力で止めてください。 

経営者にとって、おカネは
「水」
のようなもので、Aというコップ(個人)に入ろうが、Bというバケツ(資産管理会社)に入ろうが、中身は同じに見えるかもしれません。

しかし、法務の世界では、AとBは
「別人格」
であり、その名目は
「法的性質」
そのものを決定づけます。

「救世主」か「支配者」か? 過去のストーリーを思い出せ

ここで重要なのは、過去の経緯です。 

かつて、ゼータ社が御社(メメHD)の株を持った際、証券取引所や当局に対して、どのような
「ストーリー(建付け)」
で説明したか覚えていますか?

おそらく、こう説明したはずです。 

「ゼータ社は、経営支配を目的として株を持ったわけではありません(=純投資)。経営に口を出すつもりはないが、メメ社が『どうしても助けてくれ』と泣きついてきたので、会長職を『しぶしぶ』引き受けたのです」
と。

つまり、ゼータ社は
「物言わぬ、静かなるスポンサー」
という仮面を被ることで、支配株主としての厳しい規制や審査をクリアしてきたはずです。

「経営指導料」=「私は支配しています」という自白

ところが、今回会長が提案している
「経営指導料」
とは何でしょうか?

これは文字通り、
「ゼータ社が、メメ社に対して、経営の指図(指導)を行い、その対価をもらう」
という契約です。

もしこれを締結してしまえば、これまでの
「静かなるスポンサー」
という説明は真っ赤な嘘だったことになります。

「経営には関与しないと言っていましたが、ガッツリ指導して、対価まで取ってますよ」 
と、自ら取引所に自白状を送りつけるようなものです。

これは、
「私はベジタリアンです」
と宣言しながら、堂々とステーキハウスで肉を焼き、その代金を請求書に乗せようとしているのと同じです。

当局の「お目こぼし」を無にするな

もし、御社がすでに対外的な危機を完全に脱し、取引所との関係も良好で、
「もう誰に何を言われても痛くも痒くもない」
という完全無欠の状態(危機は去ったとみる状況)なら、会長のワガママを通しても良いかもしれません(それでも会社法上の利益相反取引等の問題は残りますが)。

しかし、
「あまり下手なことをすると、お咎めがあるかも」
という緊張関係がまだ残っているなら、答えは明白な
「NG」
です。

「節税」

「資金繰り」
という些細なメリットのために、企業の存立基盤である
「コンプライアンス(対外的な説明の整合性)」
を売り渡してはいけません。

【今回の相談者・論理部長への処方箋】

論理部長、会長にはこう伝えてください。

「会長、それは『法的な自殺行為』です。ゼータ社は『物言わぬ株主』という約束で、今の地位にいます。ここで『指導料』を受け取れば、過去の取引所への説明がすべて『虚偽』とみなされ、最悪の場合、上場廃止基準に抵触します。税金を安くするために、会社を潰すおつもりですか?」

経営者は、数字(カネ)の計算は得意ですが、ロジック(理屈)の整合性には無頓着なことが多々あります。

「カネのなる木」
を守るためにこそ、今はその
「果実」
を我慢すべき時です。

※本記事は、架空の事例をもとに、上場企業のガバナンスおよび開示規制に関する一般論を解説したものです。 
実際の役員報酬の変更や関連当事者取引においては、会社法上の利益相反取引規制、金融商品取引法上の開示規制、および法人税法上の取扱いなど、多角的な検討が必要です。
個別の事案については必ず弁護士や税理士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02243_ケーススタディ:「強硬な債権者」が会社を潰す前に。事業だけを別船に移し、借金の泥舟を沈める「第二会社方式」という名の“脱出ポッド”戦略

「全額払え。さもなくば差押えは取り下げない」
経営再建中の企業にとって、一部の強硬な債権者は、再建の道を閉ざす巨大な岩石です。

話し合い(特定調停)で解決しようとしても、彼らは聞く耳を持ちません。 

ならば、発想を変えましょう。 

「岩」
をどかすのではなく、私たちが
「別の道」
へ進むのです。

本記事では、強硬な債権者を置き去りにし、事業と従業員、そして大切な資産だけを新しい器(会社)に移して生き延びる、究極の再生スキーム
「第二会社方式」
について解説します。

【この記事でわかること】

• 「話し合い(調停)」に応じない債権者に対する、次の一手
• 事業を新会社に移し、旧会社を法的に処理する「第二会社方式」のメカニズム
• 交渉決裂の経緯を客観的に示し、再建手法変更の正当性を主張する広報戦略

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社 ライフ・ストレージ・デポ 代表取締役 内 蔵人(うち くらんど) 
業種 : リサイクルショップ・倉庫業(全国チェーン展開)
相手方: カーライフ・セブン社(大手カー用品チェーン・大口債権者)

【相談内容】 

先生、もう限界です。 

経営不振からの脱却を目指し、裁判所の
「特定調停」
を使って、銀行や取引先とリスケ(返済猶予)の話し合いを進めてきました。

しかし、大口債権者である
「カーライフ・セブン社」
だけが、強硬な態度を崩しません。

「一時金として1500万円払え。さらに毎月100万円払え。それができなければ、社長個人の資産への差押えは取り下げない」
と、無理難題を突きつけてきます。

彼らは調停の席にも着こうとしません。

このままでは、彼らの差押えが引き金となって、会社全体が倒産してしまいます。 

理屈の通じない相手に、どう対抗すればよいのでしょうか?

「話し合い」がダメなら「ルール(法律)」で強制する

堀之内社長、相手は
「話し合い(調停)」
のテーブルに着く気がないようです。

彼らは
「強気でいれば、音を上げて払ってくるだろう」
と高を括っているように見受けられます。

このまま調停を続けても、時間を浪費するだけです。 ここは方針を大転換し、
「法的整理(民事再生)」

「第二会社方式」
を組み合わせた、より強力な外科手術に踏み切るべきです。

借金の「泥舟」から、事業という「宝」だけを移し替える

現在の会社(ライフ・ストレージ・デポ)は、巨額の負債を抱えた
「泥舟」
です。

このままでは、カーライフ・セブン社という
「重り」
によって沈没させられます。

そこで、以下の手順で
「第二会社方式」
を提案します。

1 新会社の設立(受け皿の用意): スポンサーの支援を得て、全く新しい会社(例:株式会社LSD新社)を設立します

2 事業譲渡(宝の移動): 現在の会社から、店舗、在庫、什器、従業員など、事業継続に必要な「中身」だけを、新会社に譲渡します。
この対価(譲渡代金)は、適正価格でなければなりませんが、今の状況なら安価に設定できる可能性があります

3 旧会社の処理(泥舟の廃棄): 中身が空っぽになった旧会社(借金だけが残った会社)は、民事再生法(または破産)の申立てを行い、法的に清算します

これにより、事業は新会社で継続され、カーライフ・セブン社を含む債権者は、空っぽになった旧会社の残余財産からわずかな配当を受け取るだけになります。 

彼らが強硬に回収しようとしていた債権は、法的にカット(免除)されるのです。

再建プロセスの「不成立理由」を明確にする

このスキームの肝は、
「大義名分」
の構築です。

通常、会社を潰して別会社で事業を続けることは
「借金逃れ」
と批判されるリスクがあります。

しかし、今回は違います。

「我々は、特定調停で全債権者と話し合い、誠実に返済しようとした。しかし、カーライフ・セブン社だけが法外な要求をし、差押えを強行したため、調停による円満な解決が不可能になった。事業と雇用を守るためには、この方法しかなかった」
という経緯を明確にするのです。

つまり、特定の債権者を攻撃するのではなく、 
「円満な話し合いによる解決が不可能となった原因は、一部債権者による強硬な回収措置にある」
という客観的な事実経過をステークホルダーに説明することで、今回のスキーム(第二会社方式)の不可避性と正当性を主張し、世間や他の債権者からの批判をかわすのです。

店舗と不動産の処理:居座り戦略

店舗の家賃や、担保に入っている不動産についても、ドライに割り切ります。 

民事再生に入れば、弁済禁止の保全処分により、家賃などの支払いをストップできます。 

その間に、新会社名義で新たに賃貸契約を結び直すか(家賃の踏み倒しと居抜き契約)、あるいは家賃をリスケジュールして新会社が保証する形で継続するか、有利な方を選択します。 

担保付きの自社物件については、銀行が競売にかけるまで、新会社が事実上タダ同然で使い続ける(居座る)ことも、交渉のカードとして有効です。

【今回の相談者・内社長への処方箋】

内社長、もはや
「お願い」
する段階は過ぎました。

以下の手順で、強権的に事業を守り抜きます。

1 スポンサーの確保と新会社設立 

支援表明を取り付け、事業の受け皿となる新会社を早急に設立します。

2 事業譲渡と民事再生の同時決行 

主要な事業資産を新会社に移し、即座に旧会社について民事再生を申し立てます。

これにより、カーライフ・セブン社の差押えは効力を失い(または中止され)、彼らの回収手段を封じます。

3 「経緯」の説明 

債権者説明会等において、
「一部債権者の強硬な回収行動により、特定調停が頓挫した」事実
を淡々と説明し、今回のスキームの正当性を主張します。

「損して得取れ」
と言いますが、今回は
「泥舟を捨てて命(事業)を取る」
局面です。

冷徹な法的戦略こそが、従業員と事業を守る唯一の盾となります。

※本記事は、架空の事例をもとに、企業再生における第二会社方式および法的整理の手法に関する一般論を解説したものです。 
実際のスキーム実行においては、詐害行為取消権の対象とならないよう適正な対価設定やプロセスが必要となり、高度な専門的判断が求められます。
個別の事案については必ず再生実務に精通した弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02242_ケーススタディ:FC契約解除は「泥沼の離婚裁判」と同じ? 違約金の一括回収と“ゾンビ営業”を阻止する、本部法務のための「絶縁状(合意書)」作成術

「加盟店がロイヤリティを滞納している。契約解除だ!」 

経営陣がそう決断した時、法務担当者の仕事は
「通知書」
を送って終わりではありません。

むしろ、そこからが本当の戦いです。 

フランチャイズ契約の解消は、こじれた夫婦の離婚によく似ています。 

「金(違約金)は払いたくない」 
「店(看板)はそのまま使わせろ」
「近所で同じ商売を続けさせろ」

そんな加盟店のワガママを許せば、フランチャイズ・チェーン全体の規律(ブランド)が崩壊します。 

本記事では、不良加盟店との関係を“完全かつ不可逆的”に断ち切るための、違約金回収の鬼手と、解約後の
「居抜き営業(競業)」
を封じ込める鉄壁の合意書作成術について解説します。

【この記事でわかること】

• 「分割払い」という甘えを許さず、違約金を満額回収する交渉ロジック
• 解約後の「看板の書き換え営業(競業)」を法的に封殺する方法
• 複数店舗の解約を1枚の紙で仕留める、実務的な合意書のまとめ方

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社 ショク・イノベーション・チェーン 店舗開発本部長 辛島 厳(からしま げん) 
業種 : 飲食フランチャイズチェーン本部(居酒屋業態)
相手方: 株式会社 独立ダイニング(複数店舗を運営する加盟店)

【相談内容】 

先生、頭が痛いです。 

当社のFC(フランチャイズ)に加盟している企業が、看板料(ロイヤリティ)を数ヶ月滞納しています。 

契約に基づき
「解約」
を通告したところ、相手は
「ない袖は振れない。手元に現金がないから、未払い分も違約金もすべて長期の分割払いにしてほしい」
と泣きついてきました。

回収できないよりはマシかと思い、この分割案に応じるべきか迷っています。

しかも、彼らは契約解除後も、看板だけ掛け替えて、同じ場所で、同じメニューで、居酒屋を続けようとしているフシがあります。 

当社のノウハウを盗んだまま、知らぬ顔で商売を続けられては、真面目にロイヤリティを払っている他の加盟店に示しがつきません。 

相手の言う通り分割を認めて良いのか、そして二度と当社の真似をさせないようにするには、どのような
「合意書」
を結べばよいのでしょうか?

「無い袖は振れない」は嘘? 違約金回収は「一括」が鉄則

辛島本部長、相手の
「金がないから分割で」
という泣き落としに、安易に乗ってはいけません。

FC契約の解除において、金銭回収の鉄則は
「一括払い」
です。

なぜなら、契約が切れた加盟店にとって、本部(御社)はもはや
「生殺与奪を握る親分」
ではなく、
「ただのうるさい債権者」
に成り下がるからです。

一度
「分割」
を許せば、数回払って
「やっぱり苦しい」
と踏み倒されるのがオチです。

ここは心を鬼にして、こう交渉します。 

「FC事業としての規律(ケジメ)の問題です。一括で支払わなければ、即座に訴訟提起し、資産の差押えを行います」

プランB:「分割」を認めるなら「鎖」をつける

もし、どうしても相手が資金調達できず、現実的な回収手段として
「分割」
を認めざるを得ない場合は、ただでは認めません。

以下の
「鎖」
をつけて、逃げられないようにします。

1 金利の上乗せ: 遅延損害金(年14%など)を付加し、「待ってやるコスト」を意識させる
2 連帯保証人の徴求: 代表者個人の連帯保証はもちろん、可能なら資力のある第三者を保証人に立てさせる
3 公正証書化: 裁判なしで強制執行できる「執行認諾文言付き公正証書」を作成させる(費用は相手持ち)

「看板だけ変えればいい」という甘えを断つ(競業避止義務)

次に問題となるのが、解約後の
「ゾンビ営業」
です。

FC契約を解除されたのに、看板を変えただけで、中身は御社のノウハウそのままの店を続ける。

これは、御社のブランドに対するタダ乗り(フリーライド)です。

これを防ぐために、合意書には以下の条項を明記し、相手にサインさせます。

• 競業避止: 「同一店舗および隣接都道府県内において、2年間は同種または類似の事業(居酒屋など)を行ってはならない」
• 違反時のペナルティ: 「違反した場合は、加盟金の3倍の違約金を支払う」

「商売あがったりだ!」
と相手は騒ぐでしょうが、
「それが嫌なら、FC契約を継続してロイヤリティを払うか、違約金を積んで綺麗に別れるか、どちらかです」
と突き放すのです。

複数店舗の解約も「一本釣り」で処理する

相手が複数の店舗を運営している場合、契約書ごとに合意書を作る必要はありません。

「1通の合意書」
にまとめてしまいましょう。

ただし、ドンブリ勘定は禁物です。 

合意書の中で、
「●●店分の違約金〇〇円」
「●●店分の違約金〇〇円」
「10月分の未払い看板料〇〇円」
と、債務の内訳を明確に特定してください。

これが、後で訴訟になった際、
「何の金か分からない」
という言い逃れを許さないための証拠となります。

【今回の相談者・辛島本部長への処方箋】

辛島本部長、今回の戦いは
「情け」
をかけた方が負けです。

 当事務所としては、以下の手順で進めることを推奨します。

1 最強の武器「合意解約書(一括払い型)」の提示 

まずは、違約金一括払い、競業避止(同種営業の禁止)、秘密保持を明記した合意書を突きつけます。

ここで
「債務があること」
を文書で認めさせることが、最大の勝利です。

2 分割の条件闘争 

相手が泣きついてきたら、
「商標の使用即時中止」
「業態の変更(看板替えではなく、全く違う商売にすること)」
を条件に、違約金のみ分割を検討します。

ただし、連帯保証人は必須です。

3 違反時の即時提訴 

もし合意後に隠れて類似営業をしたり、支払いが遅れたりしたら、即座に内容証明で警告し、訴訟へ移行します。

そのための
「債務承認(合意書)」
なのです。

FC本部の威厳を守るため、最後まできっちりと
「ケジメ」
をつけさせましょう。

※本記事は、架空の事例をもとに、フランチャイズ契約の解約実務における違約金回収および競業避止義務に関する一般論を解説したものです。 
実際の競業避止義務の有効性(期間・場所・業種の範囲)は、裁判所の判断により無効とされる場合もあり、事案ごとに慎重な検討が必要です。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02241_ケーススタディ:「試用期間」は「お試し期間」ではありません。「真摯な対応」という主観が通用しない、解雇という名の“地雷原”の歩き方

「能力不足だから、試用期間満了で本採用を見送りたい」

経営者や人事担当者なら、一度は直面する悩みでしょう。 

しかし、法律の世界では、
「試用期間」

「クーリングオフ期間」
ではありません。

「真摯に対応した」
という主観的な誠意は、裁判所という冷徹な計算機の前では、ほとんど無力です。

本記事では、採用という“入り口”の甘さが招く、解雇という“出口”の激痛と、企業が陥りがちな
「真摯さの罠」
について解説します。

【この記事でわかること】

• 「試用期間なら簡単にクビにできる」という致命的な誤解
• なぜ、あなたの「真摯な対応」は裁判所で通用しないのか
• 解雇が無効と判断された時に発生する、目も当てられないコスト

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社 ネクスト・イノベーション・デザイン 人事部長 真面目 誠(まじめ まこと) 
業種 : WEB制作・デジタルマーケティング
対象者: 中途採用の試用期間中社員(能力不足・協調性欠如の疑い)

【相談内容】 

先生、先日ご相談した、試用期間中の社員の件です。 

現場からも
「スキルが経歴書と違う」
「指示に従わない」
と報告が上がっており、本人とも何度も面談を重ねてきました。

弊社としては、顧問の社労士先生とも連携し、非常に
「真摯に」
対応を重ねてきたつもりです。

しかし、本採用拒否(解雇)を通知したところ、相手が弁護士を立てて
「不当解雇だ」
と言ってきました。

こちらは誠意を尽くしたのですから、法的に負けることなんてありませんよね?

「真摯さ」は、法廷での通貨にはなりません

真面目部長、厳しいことを申し上げますが、まずは冷水を浴びせさせてください。 

あなたがどれほど
「真摯」
に汗をかき、悩み、面談を重ねたとしても、それが法的な
「解雇の要件」
を満たしていなければ、その汗は一滴も報われません。

法律の世界において、
「解雇」
とは、死刑宣告にも等しい極めて重い処分です。

日本の労働法制は、
「結婚(採用)は自由だが、離婚(解雇)は不自由」
という原則で動いています。

これは、たとえ
「試用期間」
であっても変わりません。

「試用期間」の誤解:お試しセットの返品とはわけが違う

多くの企業が、試用期間を
「通販のお試しセット」
のようなものだと勘違いしています。

「使ってみて、気に入らなかったら返品(解雇)すればいい」 
そんな感覚でいると、大怪我をします。

試用期間といえども、法的にはすでに
「労働契約」
は成立しています。

これを一方的に解除するには、 
「採用時には知ることができず、かつ、その事実を知っていたら採用しなかったであろう重大な事実」
が後から発覚した、というレベルの強固な理由が必要です。

単に
「期待していたほど仕事ができない」
「なんとなく社風に合わない」
程度では、裁判所は
「それは採用した会社側の目利きが悪かっただけ」
と判断します。

つまり、
「見る目がなかった責任」
は、企業が負わされるのです。

「真摯に対応した」という主観 vs 「指導不足」という客観

相談にある
「真摯に対応した」
という言葉。

これが一番の曲者です。 

企業側が
「真摯に説得した」
と思っている記録は、裁判官の目にはこう映る可能性があります。

• 企業側:「何度も面談して、本人の至らない点を指摘した(真摯な対応)」
• 裁判所:「具体的かつ実践的な指導を行わず、単に退職を迫っただけ(退職強要・パワハラ)」

もし、相手方の弁護士が 
「会社は具体的な改善目標を与えず、教育も放棄して、いきなり解雇を通告してきた」
と、その証拠(曖昧な指導の録音やメール)を提示してきたらどうでしょう?

このように、
「先方のロジックが正しく、解雇が無効とされてしまう可能性」
があるのです。

負けた時のコストは「給料」だけではない

もし解雇が無効と判断されれば、どうなるか。 

その社員は職場に戻ってきます。 

しかも、解雇争議をしていた期間(働いていなかった期間)の給料も、遡って全額支払わなければなりません。 

さらに、
「会社と戦って勝った」
という実績を下げて戻ってくる社員を、御社はマネジメントしきれるでしょうか?

職場は荒れ、士気は下がります。 

これこそが、安易な解雇が招く
「最大のリスク」
です。

【今回の相談者・真面目部長への処方箋】

真面目部長、
「真摯さ」
をアピールするのはやめましょう。

今必要なのは、感情的な誠意ではなく、冷徹な証拠の積み上げです。

1 「解雇」の前に「退職合意」を目指す 

解雇通知は一旦棚上げし、金銭解決を含めた
「合意退職」
の道を模索してください。

解雇が無効になった時のリスクを考えれば、数ヶ月分の解決金など安いものです。

2 「指導の記録」を再点検する 

「頑張れ」
といった精神論ではなく、
「いつ、どのような具体的な課題に対し、どういう改善策を指示し、結果どうだったか」
という客観的な記録(5W1H)があるか、弁護士と共に精査してください。

それがなければ、戦えません。

「採用は自由、解雇は不自由」
この鉄則を骨の髄まで染み込ませ、入り口(採用)のハードルを上げることこそが、最大の予防法務なのです。

※本記事は、架空の事例をもとに、労働契約法および解雇実務に関する一般論を解説したものです。
実際の解雇の有効性は、個別の事実関係や就業規則の規定、指導の経緯等により判断が分かれます。 
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02240_ケーススタディ:「カネを払わなきゃ秘密をバラす」元社員の“情報テロ”に屈しない。警察を本気にさせる告訴状のビフォーアフター

「退職金代わりにカネをよこせ。さもなくば、会社の機密をばら撒くぞ」 

退職した元従業員からの、背筋が凍るような脅迫メール。 

断固拒否した結果、機密情報はネットの海に放流され、御社の株価は無情にも下落した――。

これは単なる嫌がらせではありません。

「情報」
を人質にしたテロリズムです。

しかし、いざ警察に相談に行っても、
「労働問題でしょう?」
「実害の算定が難しいですね」
と、暖簾に腕押し。

なぜ、あなたの怒りは警察に届かないのでしょうか?

それは、あなたの書いた告訴状が
「法律の教科書」
のようで、
「悪党の物語」
になっていないからです。

本記事では、警察組織を動かし、悪質な元社員に法の裁きを受けさせるための
「告訴の戦略」

「物語の再構築」
について解説します。

【この記事でわかること】

• 事実を羅列しただけの告訴状が、なぜ警察のゴミ箱行きになるのか
• 「常習性」というスパイスを効かせ、事件を“特異な犯罪”に仕立て上げる方法
• 「逮捕」にこだわらず「前科」を狙う、現実的かつ冷徹なゴール設定

【相談者プロフィール】

 相談者: 株式会社 ストラテジック・ホライズン 法務部長 権藤 鉄男(ごんどう てつお) 
業種 : 精密機器・電子部品製造(東証プライム上場) 
対象者: 元・営業企画課員(懲戒解雇済み)

【相談内容】 

先生、怒りで手が震えています。 

当社の元社員が、
「カネを払え、払わんと会社の機密をバラすぞ」
という脅迫メールを送ってきました。

当社が毅然と拒否すると、彼は本当に機密情報をあちこちにばら撒き、その影響で当社の株価は一時的に急落しました。 

実は彼、過去の在籍企業でもデータを持ち出していた
「常習犯」
であることが、PCの解析から判明しています。

罪名は恐喝未遂。証拠のメールも、流出の事実もあります。 

私たちは彼を逮捕してほしい。

少なくとも、書類送検して前科をつけてやりたい。 

しかし、作成した告訴状案を見ても、どうもパンチが弱い気がします。

警察を確実に動かし、彼を追い詰めるには、どうすればよいのでしょうか?

その告訴状は「あらすじ」に過ぎません

権藤部長、拝見した告訴状は、率直に申し上げて
「無味乾燥」
です。

「金員を要求し、畏怖困惑させ、喝取しようとした」 
確かに、刑法の構成要件は満たしているでしょう。

しかし、これでは警察官にとって
「数ある労働トラブルの1つ」
に過ぎません。

警察を動かすには、この事件が単なる
「未遂」
ではなく、
「上場企業を標的とし、株式市場という公共のインフラを揺るがした、極めて悪質な情報テロリズムである」
というストーリー(物語)が必要なのです。

「悪性」をあぶり出す「インフォメーション・パッケージ」

単なる事実の羅列ではなく、犯人の
「悪性」
が匂い立つような
「インフォメーション・パッケージ」
を作成しなければなりません。

今回のケースで最大の武器になるのは、彼が
「札付きのデータ泥棒」
であるという事実です。

ご提示いただいた告訴事実には、この
「過去の余罪(他社のデータ持ち出し)」
が含まれていません。

これは、料理で言えば
「秘伝のスパイス」
を入れ忘れているようなものです。

1 常習性の強調: 
彼は、今回「たまたま魔が差した」のではありません。
過去のPCデータ復元結果を証拠として添付し、「彼は情報を盗み、それを切り売りして生きている、職業的な犯罪者(常習犯)である」というプロファイリングを提示します。
2 被害の甚大化(株価への影響): 
単に「機密が漏れた」ではなく、「拒否した報復として実際に情報を拡散し、株価を下落させ、多くの投資家に損害を与えた」という、実行行為の悪質さを強調します。
これは「未遂」の枠を超えた、実害の発生です。
3 計画性の立証: 
脅迫メールの文面だけでなく、彼がいつデータを持ち出し、どのように準備していたかという「犯行の軌跡」を可視化します。

これらをパッケージ化し、
「こいつを野放しにすれば、また次の会社が被害に遭う」
と警察に確信させるのです。

「逮捕」は手段。「前科」こそが目的

権藤部長、
「逮捕」
という響きは魅力的ですが、そこに固執しすぎると足元をすくわれます。

警察は
「逃亡や証拠隠滅の恐れがない」
と判断すれば、逮捕状を請求しません。

特に、すでに解雇され、証拠(メールやログ)が保全されている場合、逮捕のハードルは高いのが現実です。

しかし、御社の真のゴールは
「刑事責任を負わせること(前科をつけること)」
ですね。

逮捕されなくとも、
「書類送検(在宅起訴)」
され、有罪判決が出れば、彼は
「前科者」
になります。

「民事のトラブルメーカー」
ではなく
「恐喝未遂の犯罪者」
として認定される。

これこそが、彼にとって最大のダメージとなり、業界内での彼の
「余命」
を絶つことになります。

所轄がダメなら「本庁」へ

持ち込み先(ルート)も重要です。 

所轄の生活安全課では
「まあまあ、会社の方で話し合って」
となだめられるのがオチです。

今回は
「上場企業の株価に影響を与えた」
「サイバー犯罪的側面がある」
という点をテコに、弁護士のパイプラインを使って、警視庁(あるいは県警本部)の捜査二課(知能犯)サイバー犯罪対策課への持ち込みを模索すべきでしょう。

彼らは
「社会的反響のある事件」

「知能犯」
を好みます。

【今回の相談者・権藤部長への処方箋】

権藤部長、今の
「お行儀のよい告訴状」
は破り捨ててください。

以下の手順で、警察が飛びつく
「激辛の事件ファイル」
に作り変えます。

1 告訴状の全面リライト(悪性の可視化) 

単なる
「恐喝未遂」
ではなく、過去のデータ窃盗の証拠(フォレンジック調査結果)を別添し、
「常習的な情報窃盗犯による、計画的な企業恐喝事件」
として構成し直します。

2 被害の社会的インパクトの強調 

株価チャートや、ネットでの拡散状況を資料化し、
「一企業の被害にとどまらず、市場の公正性を害した」
というロジックを組み込みます。

3 ルートの選定(本庁アタック) 

所轄署の相談窓口ではなく、本庁の知能犯・サイバー担当部署へ、専門家を通じて
「事件のプレゼン」
を行います。

警察は
「正義の味方」
である前に、
「多忙な官僚組織」
です。

彼らが
「これは事件にできる(点数が稼げる)」
と思えるように、材料を極上の状態に調理して差し出す。

それが、企業法務における
「告訴」
の極意です。

※本記事は、架空の事例をもとに、企業に対する恐喝未遂・情報漏洩事案における刑事告訴の実務および戦略に関する一般論を解説したものです。 
実際の捜査機関の対応や立件の可否は、個別の証拠状況や担当官の判断、管轄の運用により異なります。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02239_ケーススタディ:「敗訴」=「即倒産」ではありません! 銀行口座凍結(仮執行)を回避し、逆転勝訴への望みをつなぐ「損して得取れ」戦術

 「判決、被告は原告に対し金〇〇万円を支払え。この判決は仮に執行することができる」 
無情にも響く敗訴の判決。

この瞬間から、御社の銀行口座は、いつ差し押さえられてもおかしくない
「仮執行」
の恐怖に晒されます。

建設業のようにキャッシュフローが命綱の企業にとって、口座凍結はすなわち
「死(倒産)」
を意味します。

しかし、ここでパニックになってはいけません。 

プロの法務は、負けが決まった瞬間から、被害を最小限に食い止めるための、冷徹な
「延命・防衛戦」
を開始します。

本記事では、強制執行という名の“即死”を回避するための、泥臭い
「時間稼ぎ」
と、あえて敵に塩を送ることで自らを守る
「戦略的弁済」
の極意について解説します。

【この記事でわかること】

• 判決の効力を発生させないための「判決受領の引き延ばし工作」
• カネを積んで執行を止める「執行停止」のメカニズム
• 実はプロが一番推奨する、リスクゼロの回避策「異議をとどめた弁済」

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社 くじゃく建設 専務取締役 大林 剛(おおばやし つよし)
業種 : 総合建設業(ゼネコン)
相手方: 株式会社 クールマウンテン(システム開発会社)

【相談内容】 

先生、明日の基幹システム開発訴訟の地裁判決、非常に分が悪いと聞いています。 

もし、
「仮執行宣言」付き
で敗訴した場合、相手は即座に当社の銀行口座を差し押さえにかかるでしょう。
「判決が出たら1日たりとも待たない。即座に口座を凍結してやる」
と息巻いているらしいのです。

もしメインバンクの口座が凍結されれば、月末の下請け業者への支払いがショートし、当社は黒字倒産してしまいます。 

上級審(控訴・上告)で徹底的に争うつもりですが、その前に会社が潰されてしまっては元も子もありません。 

なんとかして、相手の強制執行を止め、生き延びる方法はないのでしょうか?

第1手:判決文はすぐに「受け取るな」! 物理的な時間稼ぎ

大林専務、まずは落ち着いてください。 

相手が強制執行(差押え)をかけるには、判決文が御社に
「送達」
されなければなりません。

つまり、御社が判決文を受け取らない限り、相手は引き金を引けないのです。

ここでプロが使う初手は、
「判決受領の遷延(せんえん)」
「判決の言い渡しを聞いても、その場ですぐに判決文を受け取らず、郵送されるのを待つ」、
さらに言えば
「不在等の理由で受け取りを合法的に遅らせる」
という時間稼ぎです。

この数日間の
「タイムラグ」
が、次の手を打つための命綱になります。

第2手:カネを積んで、裁判所に「待った」をかけさせる(強制執行停止決定)

時間を稼いでいる間に検討すべき手段が、
「強制執行停止決定」
の申立てです。

「上級審で争うので、判決が確定するまで執行を止めてください」
とお願いする手続きです。

1 上訴の提起: 上告提起と同時に強制執行停止決定を申立てる
2 担保の供託: 判決額相当の現金を法務局に供託(預け入れ)する

これにより、裁判所から
「停止命令」
が出れば、相手は手出しができなくなります。

プランB:「あえて払う」ことで、傷口を塞ぐ

「執行停止」
の手続きは、書類作成や裁判所の審査に時間がかかり、一刻を争う事態に間に合わないリスクがあります。

また、要件(回復しがたい損害の疎明など)も厳格です。

執行停止発令がNGの場合、差押を回避するには、弁済しかありません。

「負けを認めるのか! 不良システムに金など払えるか!」
と怒らないでください。

プランBとしての、弁済です。

「強制執行(差押え)のリスクをゼロにする」
ために、あえてお金を払うのです。

ただし、ただ払うのではありません。

「異議をとどめた弁済」
を行うのです。

魔法の言葉:「本件を争うことを表明した上での弁済」

相手にお金を振り込む際、以下の趣旨の文書を叩きつけます。

「本件については、上告及び上告受理申立を行うものでありますし、債務を認めるわけではありませんが、確定判決とはいえないものの、裁判所から命令が出された以上、これに従う、という観点から、弁済を提供いたします。金銭を準備いたしましたので、領収書と引き換えに、貴方宛持参あるいは指定口座に振り込みます。領収書とは同時履行となります関係上、振込をご指定される場合は、金融機関において、着金確認と同時に領収書を交付いただくという方法で弁済実施します。つきましては、ご指定の金融機関と日時をご指定(出来れば複数金融機関と複数日時)下さい」

このように
「異議をとどめて」
おけば、強制執行を止め、生き延びることはできます。

【今回の相談者・大林専務への処方箋】

大林専務、感情的には
「1円も払いたくない」
でしょうが、経営判断としては
「信用を守る」
ことが最優先です。

以下の手順で進めることを推奨します。

1 まずは時間稼ぎ 

判決の受領をギリギリまで遅らせ、その間に資金の手当てと方針決定を行います。

2 プランA「執行停止」の検討 

上訴提起と同時に
「強制執行停止申立」
を行い、担保金を供託する準備をします。

これが通れば、お金は相手に渡らず、法務局に預けるだけで済みます。

3 プランB「戦略的弁済」 

執行停止発令がNGの場合、迷わずプランBです。

相手に対し、
「異議をとどめた弁済通知」
を送りつけ、速やかにお金を支払います。

これで、銀行口座凍結という
「即死」
は100%回避できます。

お金は、勝訴した後に取り返せばいいのです。 

今は、プライドを捨てて、実利(会社の命)を取りましょう。

※本記事は、架空の事例をもとに、民事訴訟における敗訴時の保全処分(強制執行停止)および弁済の実務対応に関する一般論を解説したものです。
実際の申立て要件や供託金の額、弁済の効力については、個別の事案や裁判所の判断により異なります。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02238_ケーススタディ:「警察が動かない」のはナゼですか? 告訴状を“ゴミ箱”行きにさせないための、事件の「料理法」と「裏ルート」

「横領だ! 背任だ! 詐欺だ! 警察に突き出してやる!」 
社内で発覚した不正に対し、勇んで告訴状を作成し、所轄の警察署に持ち込んだものの、
「これは民事不介入ですね」
「証拠が足りませんね」
と、のらりくらりとかわされ、門前払いを食らう。 

これは、多くの企業が直面する、冷厳な現実です。

なぜ、あなたの会社の告訴状は受理されないのでしょうか? 

それは、あなたの書いた告訴状が、警察官にとって
「味がしない料理」
だからです。

「形式的に法に触れている」
だけでは、警察は腰を上げません。 

本記事では、警察を本気にさせるための
「インフォメーション・パッケージ(激辛の物語)」
の作り方と、所轄署の窓口をスルーして本丸(本庁)へ通す
「特別なルート」
の活用法について解説します。

【この記事でわかること】

• 警察が「受理したくない」と思うダメな告訴状の共通点
• 事件を「犯罪」として立体化するインフォメーション・パッケージの魔力
• 所轄署ののらりくらりを突破する「本庁持ち込み」という選択肢

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社 ヴァリアント・ネクサス 執行役員 法務担当 剣持 鋭二(けんもち えいじ) 
業種 : IT・システム開発 
対象者: 元・事業開発部長(懲戒解雇済み)

【相談内容】 

先生、悔しくて夜も眠れません。 

当社の元部長が、架空の発注を繰り返し、裏金を作っていたことが発覚しました。 

社内調査で証拠は揃っています。

契約書、請求書、金の流れ、すべて押さえました。

そこで、顧問弁護士と協力して
「告訴状」
を作成し、所轄の警察署に持ち込んだのですが・・・。 

刑事の反応は冷ややかなものでした。 

「形式的には背任かもしれないけど、商取引の範囲内とも言えるよね」
「彼にも言い分があるだろうし、まずは民事でやってみたら?」 
と、やる気ゼロです。

このままでは、彼はのうのうと逃げ切り、当社が泣き寝入りです。 

どうすれば、警察を動かし、彼に手錠をかけることができるのでしょうか?

その告訴状、「素材の味」のまま出していませんか?

剣持さん、お気持ちは痛いほど分かります。 

しかし、拝見した告訴状、率直に申し上げて
「お粗末」
です。

「Aという行為は、刑法〇条の構成要件に該当する」 
と、法律論と事実を羅列しただけでは、多忙を極める刑事の心には響きません。 

それはまるで、泥のついた野菜と生肉をそのまま皿に載せて、
「これを食べろ」
と言っているようなものです。

警察を動かすには、
「こいつはこれほどまでに悪質であり、処罰しなければ社会正義に反する」
という、強烈な
「悪性」
が匂い立つように調理されていなければなりません。

「インフォメーション・パッケージ」を作りなさい

単なる
「告訴状」
ではなく、
「インフォメーション・パッケージ」
を作成する必要があります。 

これは、警察がそのまま捜査資料として使えるレベルまで、事件の構図を
「ミエル化・カタチ化・言語化」
したものです。

1 悪意の可視化: 単なる「取引ミス」や「権限逸脱」ではなく、彼がいかに計画的で、狡猾で、私利私欲のために会社を食い物にしたかという「ストーリー」を構築します。
2 被害の深刻化: 「◯万円損した」ではなく、その行為が会社の信用や組織にどのような甚大なダメージを与えたかを、感情に訴えるのではなく、論理的に増幅して描きます。
3 証拠の構造化: バラバラの資料ではなく、ストーリーを裏付ける証拠を、反論不可能な形で紐付けます。

「形式上法に触れる」
レベルではなく、
「実体として許されざる犯罪である」
ことを、誰が見ても分かるようにパッケージングするのです。

「所轄」がダメなら「本庁」へ

次に、持ち込む場所(ルート)の問題です。 

所轄の警察署の知能犯係は、常に事件で溢れかえっており、手間のかかる経済事案(横領・背任)は、できるだけ受理したくないのが本音です。

そこで、我々のような“有事対応のプロ”は、別のルートを使います。 

「本庁(警視庁・道府県警本部)への持ち込み」
です。

本庁の捜査二課などは、所轄とは違い、規模が大きく社会的反響のある事件や、複雑な知能犯を専門としています。 

しっかりとした
「インフォメーション・パッケージ」
を作り込み、特殊なパイプライン(人脈やルート)を通じて、本庁の然るべき担当者に直接プレゼンを行うのです。

所轄の窓口で
「お断り」
されるのを横目に、VIPゲートから入場するようなものです。 

「本庁が関心を持っている」
となれば、所轄の動きもガラリと変わります。

「逮捕」だけがゴールではない

ただし、剣持さん。

一つだけ覚悟してください。 

どれほど完璧なパッケージを作り、本庁ルートを使っても、
「逮捕」
まではハードルが高いのが現実です。 

経済事案では、証拠隠滅や逃亡の恐れが低いと判断されれば、身柄を拘束しない
「在宅起訴(書類送検)」
が関の山かもしれません。

しかし、それでも
「刑事事件として立件される」
ことの意味は絶大です。

 「民事のトラブル」
ではなく
「犯罪者」
として捜査機関の聴取を受ける。

そのプレッシャーは、相手にとって最大の制裁となり、また、御社の
「不正は絶対に許さない」
という断固たる姿勢を社内外に示すことになります。

【今回の相談者・剣持さんへの処方箋】

剣持さん、今の
「お粗末な告訴状」
で所轄に日参するのは時間の無駄です。

 以下の手順で、戦略を練り直しましょう。

1 告訴状の全面リライト(パッケージ化) 

単なる事実の羅列ではなく、相手の
「悪性」
が浮き彫りになるよう、ストーリーを再構築します。

警察が
「これは事件だ」
と直感的に理解できるレベルまで磨き上げます。

2 ルートの変更 

所轄の窓口ではなく、本庁ルートへの打診を検討します。

そのためには、刑事告訴の実務に精通し、警察組織とのパイプラインを持つ専門家の起用が不可欠です。

3 期待値の調整(逮捕にこだわらない)

 「逮捕して刑務所にぶち込む」
という高すぎるゴールではなく、
「書類送検させ、しかるべき刑事処分を受けさせる(前科をつける)」
ことを現実的な目標(落とし所)として設定します。

警察は
「正義の味方」
である前に、
「多忙な官僚組織」
です。 

彼らが動きやすいように、材料を揃え、下ごしらえをし、皿に盛り付けて差し出す。 

それが、企業法務における
「告訴」
の極意なのです。

※本記事は、架空の事例をもとに、企業犯罪に対する刑事告訴の実務および戦略に関する一般論を解説したものです。 
実際の告訴状の受理や捜査の可否は、個別の証拠状況や捜査機関の判断に委ねられます。
また、警察への「ルート」等は、弁護士の専門性や経験則に基づくものであり、全ての事案で利用可能なものではありません。 
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02237_ケーススタディ:「単純な質問」に即答できないのはナゼですか? 不正社員の“嘘”をあぶり出す、社内調査の「ロジック・トラップ」

「やっていません」
「知りません」

社内不正の疑いがある社員にヒアリングをすると、判で押したようにこう返ってきます。 

証拠が不十分な段階で、彼らの
「否認」
を崩すのは容易ではありません。

しかし、百戦錬磨の弁護士は、相手の
「答えの中身」
ではなく、
「答え方(プロセス)」
に注目します。

真実はシンプルですが、嘘は複雑です。

だからこそ、嘘をつくには
「調理時間」
が必要になります。

本記事では、不正疑惑社員との攻防において、相手の回答遅延や矛盾を突き、その信用性を完膚なきまでに弾劾する、プロの調査尋問テクニックを解説します。

【この記事でわかること】

• 回答期限の徒過が「嘘の証明」になるメカニズム
• 「やっていない」という否定を、後の裁判で有利な証拠に変える方法
• 不正調査における「客観的証拠」と「主観的弁明」の戦わせ方

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社ロジック・ディフェンス コンプライアンス室長 詰田 厳(つめた げん) 
業種 : 精密機器部品製造・卸
対象者: 元営業課長(懲戒解雇済み)

【相談内容】 

先生、懲戒解雇した元営業課長とのトラブルです。 

彼は在職中、就業規則に違反して競合他社に顧客情報を流し、自らも接触していた疑いが濃厚です。 

本人に事実確認の書面を送ったところ、期限を大幅に過ぎてから回答が来ました。

内容は、 
「私は顧客に不当な接触など一切していない。貴社の言いがかりだ」
という全面否定です。

しかし、複数の取引先からは
「彼から電話があった」
「営業をかけられた」
という証言を得ています。

物的証拠(録音など)までは揃っていないのですが、このまま
「やっていない」
の一点張りで逃げられてしまうのでしょうか?

「真実」はインスタント、「嘘」は手作り料理

詰田室長、焦る必要はありません。

相手のその対応こそが、実は最大の
「ボロ」
なのです。

ご相談いただいた相手方の回答状況を分析すると、そこには嘘を見破るための決定的なロジックが浮かび上がってきます。

まず着目すべきは、回答の中身ではなく、
「回答が遅れた」
という事実そのものです。

「自分が体験した事実」
について、イエスかノーかで答える。

これは、本来なら瞬時にできるはずです。

「朝ごはんを食べましたか?」
と聞かれて、回答に3日もかかるとしたら、それはメニューを思い出しているのではなく、
「食べたと言った方がいいか、食べてないことにすべきか」
を計算しているからです。

プロの法務はこのように断じます。

「単純直截な質問への回答が遅れるのは、事実を思い出しているのではなく、弁解という名の『創作料理』を作っていたからだ」

相手が期限を徒過したという事実自体が、
「回答を作るのに時間を要した(=事実をそのまま述べたのではない)」
という強力な状況証拠となるのです。

「やっていない」という嘘を言わせる意義

次に、相手は
「やっていない」
と回答してきましたね。

実は、不正調査においては、相手に
「嘘をつかせること」
自体が大きな成果になります。

御社はすでに、顧客から
「接触があった」
という証言(客観的事実)を得ています。

この
「動かぬ客観的事実」
を手元に確保したうえで、あえてその事実には触れず、相手方に対して質問を行い、文書で
「私はやっていません」
との明確な回答をさせます。

この対応により、次の構図が成立します。

1 客観的事実:顧客への接触があった(証拠により立証可能)
2 相手方の主張:顧客への接触はしていない(文書で明言)
3 評価:相手方の供述は、客観的事実と矛盾している

ひとたび
「重要な事実について虚偽の説明を行った」
と認定されると、その人物の他の弁明についても、
「この点についても信用できない」
と、評価されやすくなります。

このように、相手の供述の信用性を低下させる手法を、法廷用語では
「信用性の弾劾(しんようせいの だんがい)」
といいます。

相手に
「やっていない」
と明言させればさせるほど、後に客観的証拠を提示した際の矛盾は決定的となり、結果として相手の証言全体の信用性を大きく損なうことになります。

「嘘」は、自らを刺すナイフになる

今回の相手方の回答に対し、御社が取るべき態度は、反論ではありません。

淡々とした
「記録」
です。

「当方に判明した事実(顧客の証言等)と、貴殿の回答は明白に矛盾しており、貴殿は虚偽の弁解を弄していると認識せざるを得ない」 
という認識を持ちつつ、この矛盾を泳がせるのです。

不正社員が必死で考えた
「言い訳」

「時間稼ぎ」。

それらはすべて、彼の
「不誠実さ」
を証明する材料として、御社の武器になります。

どうぞ、その矛盾を淡々と、そして冷徹に記録し続けてください。

【今回の相談者・詰田室長への処方箋】

詰田室長、相手の
「否定」
に動揺してはいけません。

むしろ
「しめしめ」
と思うべきです。

1 遅れを責めず、記録する 

「回答が期限を過ぎた」
という事実を、
「弁解を創作していた証左」
として記録に残します。

後の紛争で
「なぜ遅れたのか」
を問われた際、相手は苦しい弁明を強いられます。

2 証拠は後出しにする 

手持ちの証拠(顧客の証言)をすぐに見せてはいけません。

相手に
「やっていない」
と断言させてから、
「でも、A社さんはこう言っていますよ」
と突きつけることで、相手の逃げ場を塞ぎます。

3 結論: 

嘘をつく人間は、必ずどこかで整合性が取れなくなります。 

「単純な質問」
を投げかけ続け、相手が墓穴を掘るのを待つのも、企業法務の高等戦術です。

※本記事は、架空の事例をもとに、企業法務における事実認定や交渉戦術に関する一般論を解説したものです。 
実際の紛争対応や書面の作成においては、具体的な証拠状況や法的手続きの進行を考慮する必要があります。 個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02236_ケーススタディ:その契約書は「一夜限りの恋」か、それとも「永遠の誓い」か? 経営者が知るべき、担保設定に見る“ビジネスの相思相愛”判別法

「先方が作ってくれた契約書だから、そのままハンコを押しておけばいいだろう」

もしあなたが、担保契約においてそんな軽い気持ちでいるなら、少し危険です。

特に、融資の担保となる
「抵当権」

「根抵当権」。

この
「根」
という一文字があるかないかは、法的な手続きの違いだけではありません。

それは、相手とのビジネスを
「1回きりの点」
と見るか、
「未来永劫続く線」
と見るかという、経営戦略上の決定的な
「覚悟」
の違いを意味します。

本記事では、難解な民法用語を
「恋愛」

「電車の切符」
に例え、契約書の文言に隠された、取引先のしたたかな
「プロポーズ(または束縛)」
を見抜くための視点について解説します。

【この記事でわかること】

• 「抵当権」と「根抵当権」の違いは、「切符」と「定期券」の違いである
• 相手が「根抵当権」を求めてくる本当の理由と、そこに潜むリスク
• 契約書一つで、自社が「銀行代わり」にされてしまうメカニズム

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社アストロ・リンク・クレジット 審査部長 星野 渡(ほしの わたる) 
業種 : 次世代モビリティ開発・プロジェクトファイナンス
相手方: 株式会社シグマ・プロパルション(ドローン物流ベンチャー)

【相談内容】 

先生、急ぎの案件で判断に迷っています。 

当社は、物流ベンチャーのシグマ社に対し、機体製造資金として以前から融資を行ってきました。 

この度、既に完済された5億円の貸付に対応する古い担保を解除し、新たに新型機開発資金として10億円を融資することになりました。

先方の法務部から送られてきた契約書案を見ると、前回の貸付けとほぼ同じですが、担保設定契約書だけが 
「根抵当権設定契約証書」
になっていました。

シグマ社の担当者は、電話でこのように言っていました。

「今後も開発資金のご相談をさせていただくことになるかと存じます。その都度、契約や登記の書き換えで御社のお手を煩わせるのも大変恐縮ですので、もしよろしければ、この機会にまとめて極度額(枠)を設定させていただけないでしょうか」

非常に腰が低く、こちらの事務手間に配慮してくれているようにも聞こえます。 

実務上は合理的にも思えますが、このままハンコを押してしまって問題ないでしょうか?

「抵当権」は“一回きり”の乗車券

星野部長、その
「下手にでた提案」
にこそ、相手のしたたかな戦略が隠されています。

法律用語の違いは、単なる言葉遊びではありません。

そこには、ビジネスにおける
「関係性の深さ」
が残酷なほどクリアに反映されています。

まず、これまで設定されていた
「抵当権」。

これは、いわば
「1回きりの乗車券(切符)」
です。

 「5億円の借金」
という特定の目的地が決まっていて、返済(到着)して改札を出れば、その切符は回収され、役目を終えて消滅します。

貸し手である御社としては、その1回の取引だけを管理すればいい。 

まさに、
「後腐れのない、一回きりのデート(点の関係)」
です。

「根抵当権」は“乗り放題”の定期券

対して、今回シグマ社が
「御社のために」
とへりくだって提案してきた
「根抵当権」。

これは、
「期間内なら何度でも乗り降り自由な定期券(パスポート)」
です。

根抵当権には、
「極度額(枠)」
という概念があります。

シグマ社は
「お手数をかけるのは恐縮だから」
と言っていますが、本音を翻訳するとこうなります。

「これから開発競争で何度も金が必要になる。そのたびに、いちいち御社にお伺いを立てるのは面倒だし、断られるのも怖い。だから、10億円という枠の定期券をもらって、御社の改札を顔パスで通りたい」

つまり、彼らは御社に対し、
「1回きりの取引相手」
ではなく、
「いつでも財布代わりになってくれるパートナー」
としての地位を求めているのです。

「定期券」を渡すことのリスクと覚悟

ここで重要なのは、定期券(根抵当権)を渡すということは、御社のリスク管理も
「点」
から
「線」
に変わるということです。

1 「貸しすぎ」のリスク 
「枠があるから」といって、シグマ社が頻繁に資金を要求し、気づけば御社の資金繰りが彼らの放漫経営に振り回される可能性があります。

2 「別れられない」リスク
ここが最大の違いです。
普通の抵当権なら、全額返済すれば権利は消滅し、関係はきれいに終わります。
しかし根抵当権は、今回の10億円を全額返済してもらっても、枠(箱)自体は契約期間中、生き続けます。
御社が「完済されたので、今回の融資は終了です。担保の抹消手続きに入ります」と告げても、シグマ社はこう切り返してくるでしょう。
「いえ、せっかく枠(箱)が残っているのにもったいない。抹消手続きなんて手間のかかることはせず、実は来月また資金が必要なので、その枠を使って貸してください」

3 「断る大義名分」の完全喪失
こうなると、「枠」という既成事実がある以上、御社は断る大義名分を立てにくくなり、なし崩し的にズルズルと関係を続けざるを得なくなります。

銀行であれば、それが商売ですから
「定期券」
は大歓迎でしょう。

しかし、事業会社である御社が、そこまで彼らと
「運命共同体」
になる覚悟はありますか?

【今回の相談者・星野部長への処方箋】

星野部長、相手の
「謙虚な姿勢」
にほだされてはいけません。

これは法務の問題ではなく、
「愛(ビジネス戦略)」
の問題です。

1 「これっきり」なら断固拒否する 

もし、今回の10億円がプロジェクト単位の単発融資であり、これ以上深入りしたくないなら、根抵当権の提案は断ってください。 

「お気遣いはありがたいですが、事務の手間はこちらで引き受けますので、都度、抵当権を設定しましょう」 
と切り返すのが、健全な距離感を保つ大人の対応です。

2 「骨を埋める」なら受けて立つ 

逆に、今後もシグマ社と
「雨の日も風の日も、継続的に資金を融通し合う深い関係(線)」
を築いていく覚悟がおありなら、彼らの提案に乗るのも一興です。

その代わり、与信管理は格段に難しくなることを経営陣に報告してください。

3 結論: 

「根抵当権」
という選択は、その意思を反映した、ある意味で重い
「愛のカタチ」
です。

契約書上の
「点」

「線」
に変える瞬間には、それ相応の覚悟が必要です。

その覚悟がおありなら、どうぞ、実行してください。

※本記事は、架空の事例をもとに、企業グループ内のガバナンス強化手法や担保設定に関する一般論を解説したものです。 
実際の契約締結や運用においては、会社法上の権限規定や金融関連法令に留意する必要があります。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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